SAPコンサルタントとは？仕事内容や必要なスキル・資格を解説

SAPコンサルタントの仕事内容

SAPコンサルタントの仕事は、「SAPの導入・運用に関するコンサルティング」と定義されます。ここでは、SAPコンサルタントの具体的な仕事内容を3つ紹介します。

SAP導入のコンサルティング

SAPコンサルタントは、SAPのERPパッケージを導入するクライアント企業に対し、業務内容のヒアリングや要件定義、システム構成の提案をします。

SAPコンサルタントは、APの専門家として、クライアント企業の経営資源や業務プロセスを分析し、SAPが適切に機能するよう導入を進めることが主な業務です。
業務の最適化を目的とした分析や改善提案をすることもあり、経営や業務フローに関する深い知識が求められます。

SAPシステムのカスタマイズ

SAPコンサルタントの仕事内容の一つは、SAPシステムのカスタマイズです。SAPコンサルタントは、クライアント企業の業務に適したテンプレートの選定やモジュールのカスタマイズをする役割も担います。

SAPは、導入企業の業務プロセスやワークフローに適応させるための最適化が必要です。
業種によって異なる業務内容を考慮して、SAP標準機能やベストプラクティスなどの適切なテンプレートを適用してください。
また、企業や部門ごとの独自のワークフローに対応するには、テンプレートだけでは不十分なケースがあります。必要に応じてモジュールのカスタマイズを行いましょう。

SAPの運用サポートと保守

SAPコンサルタントはERPの導入だけでなく、システム稼働後の運用サポートや保守業務も担当します。システムに不具合が発生した際のユーザーサポートや、バージョンアップに伴う変更点の対応も含まれます。

たとえば、SAP ERP 6.0のサポートは2027年に終了予定です。アップグレード版への移行やSAP S/4HANAへの移行、他社ERPへの切り替えの判断には、SAPコンサルタントの専門知識が求められるでしょう。

SAPコンサルタントの年収目安

SAPコンサルタントは、システム開発に関わる専門職の中でも高収入が期待できる職種です。

フリーランスHubにおける2025年10月時点のデータでは、月額単価のボリュームゾーンは100万円以上であり、年収換算すると1,200万円以上となります。
SAPコンサルタントの案件で募集中の件数は747件で、最も高い報酬額の案件では月額250万円にのぼります。

高単価案件を獲得するための方法やSAPコンサルタントの案件例について知りたい場合は、「SAPコンサルタントの単価相場や案件例を紹介！高年収を目指す方法も」の記事をご参照ください｡

SAPコンサルタントの種類

主なSAPコンサルタントの種類は下記の4つです。

SAPコンサルタントの種類	関わるフェーズ	担当業務の内容
ファンクショナルコンサルタント	導入フェーズ	SAPに関する業務要件の整理や設計を担当
デベロッパーコンサルタント	導入／保守フェーズ	SAPのカスタマイズやプログラミングを担当
ベーシスコンサルタント	運用／保守フェーズ	SAPシステムの基盤運用（インフラ、ユーザー管理、システム監視など）を担当
サポートコンサルタント	保守フェーズ	保守・運用のユーザー支援や問題解決を担当

SAPコンサルタントにはさまざまな種類があり、それぞれ専門性を活かしてSAPに関する業務に貢献しています。

SAPコンサルタントとSAPエンジニアの違い

SAPの専門家には、SAPコンサルタント以外にSAPエンジニアがいます。SAPコンサルタントとSAPエンジニアは、連携して業務を進めます。
両者の業務内容の主な違いは、下記の表のとおりです。

職種	仕事内容
SAPコンサルタント	クライアントの業務要件のヒアリング 業務プロセス設計 SAPシステムの設定（コンフィギュレーション） 導入支援 プロジェクトマネジメント ユーザー教育 導入後の運用サポート
SAPエンジニア	ABAPプログラミングなどの技術的カスタマイズ モジュールの開発 インターフェース開発 システム基盤管理（インフラ設計・構築）

SAPコンサルタントが経営や業務の視点からSAP導入を全体的に支援し、SAPエンジニアが技術的な側面を担当します。

SAPエンジニアについて詳しく知りたい場合は、「SAPエンジニアとは？業務内容や収入、将来性について解説！」の記事をご覧ください｡

SAPの概要

SAPコンサルタントが関わる「SAP」について、概要を解説します。

SAPとは

SAPとは、ビジネスプロセス管理ソフトウェアを提供している、ドイツに本部を構える多国籍企業のSAP社のことを指します。「SAP」は、英語名の「System Analysis Program Development」のイニシャルをとった呼称です。

また、「SAP」はSAP社が提供しているERP（エンタープライズ・リソース・プランニング）ソフトウェア製品を指す場合もあります。
ERPパッケージは複数のメーカーが製品を提供していますが、SAP社のERPパッケージは特に高い人気を誇っており、「SAP」という名称がERPの代名詞として広く認識されています。

SAPの主な製品

SAPには多様なビジネスソリューションがあり、企業の業務管理を支援するERP製品も複数提供されています。
SAPの代表的な製品は以下のとおりです。

製品名	主な特徴	対象企業の規模	備考
SAP S/4HANA	インメモリデータベースSAP HANAを基盤とし、超高速のデータ処理とリアルタイム分析が可能	大企業向け	第4世代ERP、業種別ベストプラクティスに基づく運用が可能
SAP Business ByDesign	クラウド型ERPで、中堅企業やグループ会社向け。SaaS型で設備投資を抑えつつ多機能を提供	中堅企業向け	財務管理、人事、販売管理など複数の業務に対応
SAP Business One	中小企業向けのビジネスマネジメントソフト。成長に応じて拡張が可能	中小企業向け	財務会計、顧客管理、販売管理などの主要プロセスを合理化

SAPの主製品には「SAP ECC」もありますが、2027年末までにサポートが終了することが発表されています。そのため「SAP ECC」は「SAP S/4HANA」への移行が推奨されています。

SAPの主なモジュール

SAPの主なモジュールは下記のとおりです。

SAP FI（財務会計）モジュール

SAP FI（Financial Accounting）は、財務会計業務を担当するモジュールです。企業の財務諸表の作成や、社外向けの財務データ管理をサポートします。

SAP CO（管理会計）モジュール

SAP CO（Controlling）は管理会計を担当し、コスト管理や利益分析、内部報告を支援します。SAP FIと連携することで、財務会計と管理会計の両面から企業の経営管理を支援します。

SAP MM（在庫・購買管理）モジュール

SAP MM（Material Management）は、購買、発注、入庫、在庫管理、帳票作成などの機能を持ち、購買業務の効率化を図ります。SAP SD（販売管理）やSAP PP（生産計画・管理）などの他モジュールと連携し、統合的な業務管理を実現します。

SAP HR（人事管理）モジュール

SAP HR（Human ResourcesまたはHuman Capital Management）は、人事管理業務を担当し、労務管理や採用、人材育成、給与計算、労務コンプライアンス対応などを一元管理します。

SAP SD（販売管理）モジュール

SAP SD（Sales and Distribution）は、受注処理や出荷管理、請求処理、契約管理など、販売業務を統合的に管理します。顧客管理やクレーム対応機能も備えており、営業プロセス全体を可視化し、迅速な意思決定を支援します。

SAP PP（生産計画・管理）モジュール

SAP PP（Production Planning）は、生産計画の作成や生産プロセス管理、実績データ収集など、生産業務の最適化を支援します。SAP SDやSAP MMなどと連携し、全体の業務効率を向上させます。

SAPが企業の仕事で人気の理由

ここでは、SAPが多くの企業に支持される理由を詳しく解説します。

グローバルに利用されている

SAPのERPは世界各国で導入されており、グローバル企業からも高い支持を得ています。日本国内でも、海外展開を進める大企業や中小企業を中心に多くの導入実績があります。

SAPは各国の業務プロセスを考慮して標準化されたワークフローを提供しているため、SAPの標準機能に適した業務を持つ企業であれば、スムーズに導入できます。

多彩な機能を標準で装備している

ERPは企業の資源を統合的に管理するシステムであるため、幅広い機能が求められます。SAPには財務や人事といった基幹業務向けのモジュールが用意されており、企業ごとの業務プロセスに対応可能です。

また、SAPは世界各国の商習慣や法規制に対応するノウハウを持ち、各国の企業での導入実績が豊富です。標準機能が充実していて、カスタマイズなしでも多くの基幹業務に対応できる点が大きなメリットといえます。

多様なプラットフォームに導入できる

SAP ERPはオンプレミス環境での導入実績が豊富で、多様なハードウェアやOSに対応しています。さらに、クラウド対応の製品が登場し、特定の端末に依存せず、Webブラウザ経由での利用にも対応しています。

また、SAP Business Oneのように、中小企業でも導入しやすいリーズナブルな製品も提供されています。

AIとの組み合わせで効率化できる

SAPは自社のクラウドソリューションにAIを組み込む方針を採用しており、SAP S/4HANA Cloud Public Editionなどで実装が進んでいます。AIとERPを組み合わせることで蓄積された業務データを解析し、予測精度の向上が期待されるでしょう。

たとえば、製造業や販売業では需要予測の最適化が可能になります。資材調達においても供給量や品質、納期などをAIが分析し、適切なサプライヤーの選定を支援できます。

モジュールごとに業務管理ができる

SAPには、特定業務向けに最適化された「モジュール」と呼ばれる機能群が用意されています。
SAPのモジュールの例は下記のとおりです。

• SAP FI（財務会計）モジュール
• SAP CO（管理会計）モジュール
• SAP MM（在庫・購買管理）モジュール
• SAP HR（人事管理）モジュール
• SAP SD（販売管理）モジュール
• SAP PP（生産計画・管理）モジュール

モジュールごとに業務管理ができることは、専門的で効率的な業務運用、正確なデータ連携、企業ごとの柔軟な対応などを可能にします。

SAPコンサルタントに必要な知識・スキル

ここでは、SAPコンサルタントとして働くために必要な知識やスキルについて解説します。

ERPの知識

SAPコンサルタントは、SAP ERPパッケージの導入を支援する役割を担います。クライアント企業の業務内容やニーズを正確に把握し、最適な構成・機能を持つSAPを提案します。導入・運用の支援をするため、SAPやERPに関する深い知識が必要です。

基幹業務は財務・人事・販売・生産など複数の分野にまたがります。ERPに関する知識とそれぞれの業務内容を理解し、ERPの機能を最大限に活用する提案力が求められます。

システム構築に関わる基本的なIT知識

SAPコンサルタントは、SAPの導入やカスタマイズだけでなく、システム全体の構築や連携を理解することも重要です。そのため、以下の基本的なIT知識を身につけていることが求められます。

• ネットワークの基礎
• データベースの基本構造
• プログラミングの基礎
• システム連携の理解

これらのIT知識は、SAP導入プロジェクトにおける技術的な課題の把握や開発チームとの円滑な連携に役立ちます。

課題解決力

SAPの導入を検討する企業の多くは、経営課題の解決を目的としています。そのため、SAPコンサルタントは、クライアント企業の経営課題を把握し、SAPの導入による解決策を提示する必要があるでしょう。

SAPで解決すべき課題には、省力化、生産性向上、企業価値の向上などが含まれます。企業の現状を正確に分析し、最適な解決策を提示し、実現に向けて推進する能力が求められます。

コミュニケーション力

SAPコンサルタントは、クライアント企業の課題を解決するために現状を深く掘り下げて把握し、適切なソリューションを提案する必要があります。

効果的に要件定義を行うには、クライアントへの十分なヒアリングが欠かせません。導入時のアドバイスや運用サポートの際に適切な対応をすれば、コンサルティングの成功につながります。

英語力

SAPのERPパッケージは完全に日本語化されているわけではありません。ソースコードのコメントや技術文書、マニュアル類が英語で記載されていることが多いといえます。そのため、英語を読む力が求められます。

また、SAPのサポート問い合わせや海外チームとの連携時に英語でのコミュニケーションが必要になる場面もあります。英会話スキルがあれば、海外案件に関わる機会が広がり、グローバルなプロジェクトへの参画や海外の開発チームとの連携も可能となるでしょう。

SAPコンサルタントの仕事の魅力

SAP ERPが世界的に普及していて需要が高いことから、SAPコンサルタントの仕事にはたくさんの魅力があります。
ここでは、SAPコンサルタントの仕事の魅力について解説します。

SAPに関する幅広い業務ができる

SAPは企業の基幹業務を担うシステムであり、経営にとって重要な役割を果たします。また、ERPのスタンダードとして世界的に信頼されているシステムです。

そのため、SAPコンサルタントには十分な活躍の場があるといえます。SAPに関する専門的な知識を深めれば、SAP領域で多岐にわたる専門業務を担当できるでしょう。

大手企業がクライアントになる

数多くの大手企業がSAPを導入しています。SAPコンサルタントになれば、大手企業がクライアントになります。
大規模プロジェクトに関わることによってクライアントの経営課題を解決する高度なコンサルティング業務を経験できる点も、大きなやりがいにつながるでしょう。

上流工程に関われる

SAPコンサルタントは、開発フローの中でも上流工程を主に担当します。
SAPコンサルタントは経営課題の解決を目的としているため、経営視点でのアプローチが求められます。企業の経営者や意思決定者との関わりが多く、業務改革や企業成長に直結する仕事に携われる点が魅力です。

経営的なインパクトが大きい業務であり、成果が評価されやすく、報酬面も期待できるでしょう。

多様な業界・企業に関われる

SAPを導入する業界は製造・流通・金融・小売など多岐にわたります。

プロジェクトごとに業界や企業ごとの異なるノウハウを学ぶことが可能です。多様なプロジェクトに関与することによって、コンサルタントとしての専門知識を深められるでしょう。海外企業のERP導入支援に携われば、グローバルな経験を積むこともできます。

安定した需要がある

SAPの需要が高く、仕事の案件が豊富にあることは、SAPコンサルタントの大きな魅力の一つです。

SAP社は長い歴史を持つ企業であり、SAP ERPの世界シェアはトップクラスです。
近年は、導入しやすいクラウドERPの普及が進み、中小企業の新規導入も拡大しました。また、既存のSAP ERPを新しいバージョンへ移行するリプレース案件や、システムの運用・保守を担う案件も多数存在します。
SAPコンサルタントには安定した需要があるといえるでしょう。

SAPコンサルタントの仕事の懸念点

需要が高い職種ではありますが、一方で負担が偏るおそれがあることが懸念点です。スキルや専門知識を持つ人材は地域や業界によって不足しており、有能なSAPコンサルタントに仕事が集中して業務負担が大きくなる可能性があります。
ワークライフバランスに配慮する必要があるでしょう。

SAPコンサルタントの仕事に役立つ資格

SAPコンサルタントとして働くために資格は必須ではありませんが、資格を取得することによってSAPの専門知識・スキルを客観的に証明することが可能です。

SAPコンサルタントの仕事に役立つ資格には、「SAP認定資格（SAP Certification）」があります。SAP認定資格はSAP社が公式に認定する資格であり、クライアント企業や採用企業からの信頼を得るために有効な手段といえます。

SAP認定資格は、業務分野に応じて以下の3つのカテゴリに分かれています。

• アプリケーションコンサルタント：業務プロセスに基づいたSAPの導入・運用に関するコンサルティングを担当
• デベロップメントコンサルタント：SAPシステムの開発やカスタマイズに関する技術的な専門知識を持つ
• テクノロジーコンサルタント：SAPのインフラ・システムアーキテクチャ・運用管理を専門とする

SAPに関する資格の詳細については、「SAP資格取得を目指す方に！種類一覧や難易度・取得方法などを解説」をご参照ください｡

未経験からSAPコンサルタントを目指す方法

未経験からSAPコンサルタントを目指す場合、SAPに関する業務経験を積むことが重要です。
SAPを導入している企業での実務経験があれば、その知識を活かしてSAPコンサルタントに転身できる可能性が高まります。SAP導入企業での経験を活かし、コンサルティングファームやSler（システムインテグレーター）への転職が一般的なキャリアパスです。

また、SAP認定資格を取得しておくと、SAPコンサルタント未経験者でも転職活動やキャリア形成において有利にはたらくでしょう。

SAPコンサルタントの将来性

SAP ERPは大企業を中心に広く導入されていて、近年は中小企業向けのERP製品も増加しています。IT市場の成長とともに、SAPの需要はさらに拡大すると予測されています。

特に、SAP ERP 6.0のサポート終了が2027年に予定されており、多くの企業がSAP S/4 HANA Cloudへの移行や、他社ERPへの乗り換えを検討しているでしょう。このような状況から、SAPコンサルタントへのニーズは今後も高まり、案件数の増加が見込まれます。

長期的な視点でのシステム運用が求められるなかで、SAPコンサルタントの需要は今後も安定するといえるでしょう。

まとめ

SAPコンサルタントの主な仕事は、SAPの導入・カスタマイズ・運用サポートを通じて企業の業務改善を支援することです。企業の基幹システムに深く関与し、経営課題の解決に貢献できる点が、SAPコンサルタントの仕事の大きな魅力だといえるでしょう。

未経験からSAPコンサルタントを目指す場合、導入企業やSlerでの実務経験を積み、SAP認定資格を取得することがおすすめです。SAPに関する専門的な知識・スキルがあることを証明できれば、SAPコンサルタントとして採用される可能性が高まります。