個人事業主が法人化するメリットとは?デメリットや手続きの流れも解説

最終更新日:2025年02月26日

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個人事業主で一定の成果を得ると、法人化した方が収入面や信用面で得する場合があります。しかし、法人化は手続きが複雑なため、躊躇する人も少なくありません。

本記事では個人事業主が法人化するメリットやデメリット、必要な手続き、移行に適したタイミングを紹介します。何を目安にして法人化に踏み切れば良いか知りたい方、「どっちが得?」と疑問に思っている方はぜひお読みください。

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個人事業主の法人化とは

個人事業主が株式会社や合同会社に変更することを、「法人化」または「法人成り」といいます。個人事業主の法人化手続きは通常の会社設立とほとんど同じですが、違う点もあります。それは事業の引き継ぎの有無です。

通常の会社設立では、設立時に資本金のみを所有します。しかし、個人事業主が法人化する場合は資本金だけでなく、事業内容・保有資産・負債など個人時代に所有していたものすべてを引き継ぎます。

違いについては、「個人事業主と法人の違いとは?それぞれのメリット・デメリットも比較」の記事でも詳しく解説しています。

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個人事業主が法人化するメリット

個人事業主が法人化するメリットは多く、節税や事業拡大、リスクの低減などがあげられます。いずれにしても、個人事業主のときにはなかなか得られなかった効果があるでしょう。法人化の代表的なメリットを5つ紹介します。

節税効果がある

個人事業主には所得税、法人には法人税が課されます。所得税は所得が増えるほど税率も比例して高くなりますが、法人税は所得800万円を境に税率が変わるのみです。所得が多いほど、法人化による節税効果が高くなります。

法人では役員報酬や給与、退職金を損金計上できます。損金を差し引いた残りの収益にのみ法人税がかかるため、節税が可能です。また、個人事業主は3年しか繰り越せない赤字も法人化すれば10年になります。

事業承継の円滑化につながる

法人化のメリットは事業承継にもあります。事業承継とは、経営者が会社・事業を他の人に引き継ぐことです。

個人事業主が事業承継をするには、相続人(後継者)が必要です。さらに、個人事業主は事業や保有資産をそのままスムーズに承継できません。相続人が改めて個人事業を開業して事業を継承します。

個人事業主が死亡した場合でも同様です。法人では、経営者が死亡したときに新たに法人を設立する必要はありません。会社の株式を相続すれば、スムーズに事業承継できます。

信用度が向上する

社会的な信用度が向上するのも法人化のメリットです。

個人事業主からの法人化には費用と労力が伴うため、取引先にとっては事業の本気度を測る目安になります。法人化すると会社が登記簿謄本に登記され、資本金や所在地が公開されるので、信用度が向上するでしょう。

信用度が向上すると銀行からお金を借りやすくなったり、取引先が拡大したりします。事業を拡大したい場合、法人化による効果は見逃せません。

責任範囲が限定される

事業に失敗した際、お金を未納・滞納する可能性があります。このとき個人事業主は無限責任で、全額返済しなければなりません。

法人は有限責任であり、出資した範囲内で返済の義務を負います。会社が倒産しても、負債を個人で返済する責任はありません。法人化には責任範囲を限定してリスクを低減し、事業を展開しやすくするメリットがあります。

決算月を任意で設定できる

個人事業主の会計期間は、税法により1月1日〜12月31日と定められています。

個人事業主は事業の繁忙期と重なるとしても、決算月を12月から動かせません。決算と繁忙期が重複し、その影響で確定申告が遅れるとペナルティが課せられる恐れがあります。

法人の決算月は自由に設定可能で、忙しい月を避けられます。また税理士や会計事務所に依頼する際も、繁忙期の12月から3月を避けて依頼できるでしょう。

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個人事業主が法人化するデメリット

事業拡大や節税などのメリットがある法人化ですが、個人事業主と比べて劣る部分もあります。デメリットを確認し、法人化する際の参考にしましょう。

設立や運営費用が発生する

法人化にあたり、新しく会社を設立する費用が必要です。定款の作成費や登記費用などがあげられます。

設立する形態で費用は異なり、株式会社の場合は数十万円かかることもあります。こうした費用は会社の信用を高めるので、デメリットとは言い切れません。それでも、法人化のハードルになる場合もあるでしょう。

また、会社を設立し、事業を運営する際には維持費もかかります。税理士・司法書士などに業務を依頼すると、その報酬もかかるでしょう。事業規模によっては負担が増えるため、個人事業主より慎重な選択が求められます。

利益が出なくても納税が必要になる

個人事業主は決算時に赤字だと、所得が無いので所得税と住民税はゼロになります。

法人は赤字であっても法人住民税(均等割)の納税が必要です。都道府県民税均等割が最低でも2万円、市町村民税均等割が最低でも5万円かかります。複数の地方自治体に事務所がある法人では、それぞれの自治体に納税する義務があります。

納税額は資本金の額や従業員数で増減するものの、赤字でも納税が求められる点は法人化のデメリットです。

事務や会計作業が複雑化する

法人化の大きなデメリットの一つに、会計や事務の複雑化があげられます。

たとえば、法人は会社の財布と個人の財布を分けなければいけません。法人とは法律によって認められた1つの人格であり、法人の所得が経営者個人の所得とは別に扱われるためです。他にも、代表取締役の変更や異動の際に法務局に登記申請する必要があります。

事務・会計が複雑になると、個人またはノウハウのない社員だけでの対応は難しくなります。税理士・司法書士らへの依頼やそうした人材の雇用で対応可能ですが、報酬が発生することを念頭に置きましょう。

社会保険への加入義務が生じる

個人事業主は国民健康保険・国民年金の加入が義務付けられています。法人化に伴って社会保険に切り替わり、健康保険料・厚生年金保険料の納入義務が生じます。

社会保険は国民年金や国民保険に比べて保障が手厚くなりますが、保険料が高いのが特徴です。また、法人では労働保険への加入も義務付けられます。

従業員を雇う場合、会社は従業員の保険料の半分を負担しなければいけません。従業員の人数に比例して会社の負担額も増えていきます。

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法人化に必要な手続き

個人事業主の法人化には、新たに会社を設立するのと同じ手続き、および個人事業主から引き継ぎをするための手続きが必要です。それぞれ確認しましょう。

基本項目の設定

会社を設立するにあたって、最初は基本項目を設定しましょう。会社の基本項目は以下のとおりです。

  • 会社名(商号)
  • 本社の所在地
  • 事業の目的や内容
  • 会社の形態(株式会社か合同会社か)
  • 役員の構成、報酬額
  • 資本金額
  • 決算日

上記は登記簿や定款に記載しなければなりません。スムーズに申請するためにも、基本項目の設定は最初に取り組みましょう。

定款の作成

会社の憲法ともいわれる定款の作成は、法人化における重要な手続きです。記載する事項(絶対的記載事項)は法律で定められていますが、定款自体に決められた形式はありません。

定款の作成後、株式会社は公証人に定款を認証してもらう必要があります。合同会社では認証が義務付けられていません。認証にあたっては定款3部のほか、発起人全員の実印や認証手数料がかかるため、あらかじめ準備しましょう。

資本金の支払

定款の作成・認証が完了したら、資本金の払い込みに移ります。会社の設立手続きの段階では法人口座が開設できないため、振り込み先は発起人の個人口座です。普通預金口座やインターネットバンキングでも構いません。

いずれの場合も、銀行名や口座名義人の情報振込をした明細が分かる書類をプリントアウトする必要があります。登記申請の際にプリントした書類の提出が求められます。

設立の登記

法務局で設立する会社の登記申請をします。申請には以下の書類が必要です。

  • 登記申請書
  • 登録免許税の収入印紙を貼付した台紙
  • 定款
  • 取締役、代表取締役それぞれの就任承諾書
  • 取締役の印鑑証明書
  • 資本金の振込を証明する書類(口座情報や振込明細のコピー)
  • 印鑑届出書
  • 登記事項を記載した書面(または、それを保存したCD-R)

上記の書類が法務局で受理・審査されたのち、法人登記簿に登記されると会社が設立されます。このとき、法務局で登記を申請した日が会社設立日となります。

個人事業主の活動停止手続き

会社の設立が完了したら、次は個人事業主の活動を停止(廃業)する手続きをします。税務署に以下の書類を提出しましょう。

  • 個人事業の開業・廃業等届出書
  • 事業廃止届出書(消費税の課税事業者だった場合)
  • 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(従業員に給与を支払っていた場合)
  • 青色申告の取りやめ届出書(青色申告をしていた場合)
  • 所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書(所得税の予定納税額を減額したい場合)

カッコ内で示したように、必要な場合のみ提出する書類があります。事業内容や状況に合わせて書類を揃えましょう。

また、開業届については、「個人事業主が出す開業届とは?書き方や提出するメリットなども解説」の記事、廃業届については、「廃業届の書き方・提出方法など廃業時に必要な届出書について解説」の記事も参考にしてください。

名義の変更

個人事業主から法人への引き継ぎでは、名義の変更も重要です。取引先との契約をはじめ、事務所や駐車場の賃貸借契約、公共料金の契約者名など、会社に関係するすべての名義を変える必要があります。

また、単純に名義を個人名から法人名に変えるだけでなく、新たに法人名で作成するものもあります。それは、法人名義の銀行口座です。

資本金の振込をした段階で個人口座に入金した資本金も、法人名義の口座に移動しなければなりません。各種名義の変更とともに、法人名義の銀行口座も新たに作成しましょう。

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個人事業主が法人化するのに適したタイミング・目安

個人事業主が法人化を進める目的として、事業拡大や節税などがあげられます。しかし、法人化に踏み切るタイミングについても考えましょう。個人事業主が法人化するのに適したタイミングを解説します。

所得金額が増加したとき

所得が800万円を超える場合、法人の方が節税できる可能性が高くなります。所得税と法人税の税率が異なるためです。

累進課税制である所得税は所得に応じて徐々に税率が上がりますが、法人税では所得800万円以上の税率が固定されています。所得金額が800万円ほどなら、所得税率より法人税率の方がが低くなるので節税につながるでしょう。

具体的にどの程度節税ができるかを確認したいときは、専門家への相談がおすすめです。

売上が増加したとき

売上高が増加したときは、法人化に適したタイミングです。具体的には、以下2点が法人化がお得になる目安になります。

  • 2年前の課税売上高(年間)が1,000万円以上になる手前
  • 前年の前半6ヶ月の課税売上が1,000万円以上になる手前

これらは消費税の納税義務が生じる課税事業者になる手前の状態です。売上が1,000万円を超えた個人事業主には、消費税の納付義務が発生します。しかし、個人事業主・法人を問わず、新規で開業をした事業者は最大で2年間消費税納付義務の免除が適用されます。

そのため、課税事業者になる手前で法人化すると消費税の節税が可能です。

事業拡大をするとき

節税だけでなく事業拡大を検討しているときも、法人化に適しています。

事業の拡大にあたって信用度の向上やリスクマネジメントを考えているなら、法人化がおすすめです。法人化すると、取引先から法人間取引を求められたときにも対応できます。

事業拡大に伴い、従業員を雇うときも法人化に適したタイミングだといえます。社会保険への加入義務があり信頼度が高いため、応募者から「環境が整っている」と思ってもらえるのがポイント。採用活動が有利になるでしょう。

事業計画書については、「事業計画書の書き方とは?個人事業主が作成するメリットや必要性を解説」の記事もチェックしてみてください。

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個人事業主が法人化する際の3つの注意点

個人事業主が法人化するときには、注意点について知る必要があります。ミスや手違いで不利益を被らないためにも、ここで紹介する3つのポイントを押さえましょう。

資産を移行する

個人事業で保有していた資産はすべて法人へ移行しなければなりません。この資産には、債務も含まれます。

個人事業主と法人は全く別物として扱われます。そのため、事業内容や代表者が変わらなくても、資産や債務は第三者に引き継ぐ手続きをしたうえで移行します。自動では引き継がれないので注意しましょう。

確定申告・廃業後の事業税の申告をする

法人化する際に、個人事業の廃業届を提出します。個人事業自体は廃業扱いになるということです。

廃業した年の個人事業税はその年の1月1日から廃業日までの所得をもとに計算され、除額は月割りで計算されます。手続きや計算を忘れずに行いましょう。

また、前年に支払った個人事業税は経費にできますが、廃業するとその年の個人事業税を翌年の経費に計上できません。

代わりに、個人事業税の見込控除を利用できます。廃業した年の確定申告で個人事業税の見込額分を控除できる制度です。同制度を活用すれば、損をせずに経費計上できるでしょう。

確定申告については、「確定申告に源泉徴収票は必要?書類一覧や確定申告に関する疑問を解説」の記事でもまとめているので興味のある方はご覧ください。

法人化すると個人事業主に戻りにくいことを知る

法人化してから「個人事業主の方が良かった」と思ったら、個人事業主に戻ることは可能です。これを個人成りと呼びます。

ただし、個人成りをすると、法人化によって得られたメリットを失います。特に、既存の取引先からの信用を失ったり、理解を得られなかったりする可能性が高いでしょう。決算付きの変更や赤字の引き継ぎが不可になるなどの不都合も生じます。

「個人成りは可能だが難しい」と認識しておきましょう。

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まとめ

個人事業主の法人化は、事業拡大や節税などの面で効果的です。しかし、法人化で得られるメリットは多くの手続きと費用によって得られるものであり、その煩雑さがかえってデメリットになる場合もあります。

事業の状態や所得などから、個人事業主を継続するか法人化するかを判断しましょう。

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