個人事業主に源泉徴収する義務はある?対象になるケースや計算方法も紹介

最終更新日:2025年11月28日

「個人事業主に源泉徴収義務はない?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。 個人事業主でも、報酬・給与などを支払う側の場合は源泉徴収義務者になります。 本記事では、個人事業主が源泉徴収義務者になる条件や源泉徴収の対象となる報酬・料金等の種類について解説します。また、ケース別の源泉徴収税額の計算方法や源泉徴収票の記載項目、仕訳のやり方、納付方法も紹介するので参考にしてください。

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源泉徴収とは

源泉徴収とは、報酬や給与を支払う側が、かかる所得税や復興特別所得税などの税金をあらかじめ差し引いて、本人に代わって国に納める仕組みのことです。
源泉徴収は、税金の徴収を円滑かつ確実に進めることが主な目的です。

源泉徴収を納める手続きを行う事業者は、「源泉徴収義務者」と呼ばれます。
個人事業主の場合、クライアント(源泉徴収義務者)が、支払う報酬から所得税を差し引いた金額を個人事業主に支払います。差し引かれた金額は、クライアントが税務署に納付するため、基本的に個人事業主は直接納める必要がありません。源泉徴収された税額は、翌年の確定申告で最終的な所得税額を計算する際に、すでに納付した税金として扱われます。

個人事業主自身が源泉徴収義務者になるケースもあります。源泉徴収義務者になるケースについては、次の章で紹介します。

出典:
国税庁「源泉徴収のしかた」
国税庁「新たに源泉徴収義務者になられた方へ」
国税庁「No.2110 事業主がしなければならない源泉徴収」

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個人事業主が源泉徴収義務者になるケース

個人事業主が源泉徴収義務者になるのは、報酬や給与、退職金などを支払うケースです。
個人事業主が源泉徴収義務者になる主な条件は、以下のとおりです。

  • 従業員を雇用して給与や退職手当を支払っている
  • 税理士や弁護士、司法書士といった特定の専門家へ報酬を支払う

なお個人事業主が常時2人以下の家事使用者のみに給与や退職金を支払う場合は、源泉徴収義務は発生しません。

出典:
国税庁「No.2502 源泉徴収義務者とは」
国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」
国税庁「源泉徴収のしかた」

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源泉徴収の対象となる報酬・料金等

報酬・料金等の種類には、源泉徴収の対象となるものと対象外となるものがあります。そのため、請求書を作成する際は源泉徴収の対象になるもの・ならないものの項目を分けて記載し、対象となる報酬や料金には源泉徴収額を記載しましょう。

ここでは、所得税法第204条第1項に定められた、源泉徴収が必要な報酬・料金について紹介します。

出典:
国税庁「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」
国税庁「令和7年版 源泉徴収のあらまし 第5 報酬・料金等の源泉徴収事務」

第204条第1項第1号の報酬・料金

第204条第1項第1号の報酬・料金で源泉徴収の対象になるものとならないものは以下のとおりです。

区分 報酬・料金等に該当するもの 対象外となるもの
原稿の報酬 記事や本の原稿料
本の監修や編集の報酬
演劇、漫才、映画の台本や筋書き料
朗読や口述による報酬
詩、歌、標語などのコンテストで入賞した賞金
懸賞応募作品の選考料や審査料
試験問題の出題料や答案の採点料
クイズの問題や解答の投稿に対する賞金
個人的な懸賞で受け取った賞金や賞品
テレビ番組やラジオ番組のモニターに対する報酬・鑑定料
直木賞や芥川賞などの文学賞の賞金・賞品
デザインの報酬 工業、クラフト、グラフィック、パッケージ、広告、インテリア、ディスプレイ、服飾、ゴルフ場、庭園、遊園地などのデザイン
映画関係の原画料・線画料・タイトル料
テレビ放送のパターン製作料
ロゴマークなどの懸賞金
織物のデザイン料
看板の文字・絵の制作料
ネオンサインや広告塔、ショーウインドウの装飾料
放送謝金 ラジオやテレビショッピングの謝金など 放送演技者に支払う料金は第5号の報酬、料金に該当
素人の出演は第8号の賞金に該当
著作隣接権の使用料 レコードの吹き込みによる印税など 商業用レコードの二次使用料
講演の報酬・料金 講演を依頼した場合の講師に支払う謝金 ラジオやテレビ、そのほかのモニターに対する報酬
技芸・スポーツ・知識等の教授・指導料 スポーツや芸術、知識などを教えることで受け取る指導料や謝金(生け花・お茶・ダンス・料理教室など、先生として教えることで得られるもの) 講演会のお礼に当たる料金
プロのスポーツ選手が受け取る報酬は第4号の報酬・料金に該当
通訳の報酬・料金 通訳の料金 手話通訳にかかる報酬や料金
書籍の装丁の報酬・料金 書籍の装丁料 製本の料金
版下の報酬・料金 原画や元の図面から、印刷しやすいように下絵や下図を書き直す作業の報酬 デザインされた型を彫る作業の報酬
布地のデザイン代や模様の型の報酬
写真植字という、文字を印画紙に写す作業の報酬

所得税法第204条第1項第1号は、専門的な知識や技術の提供に対する報酬を源泉徴収の対象としています。

第204条第1項第2号の報酬・料金

第204条第1項第2号の報酬・料金で源泉徴収の対象になるものとならないものは以下のとおりです。

区分 報酬・料金等に該当するもの 対象外となるもの
弁護士や公認会計士、税理士などの業務に関する報酬・料金 弁護料や監査料など、専門家としての業務に関するすべての報酬・料金 雇用契約に基づいて給料として支払われる報酬
建築士の業務に関する報酬・料金 建築物の設計、工事監理・建築工事の指導監督・建築工事契約に関する事務
建築物の調査、鑑定・建築に関する法令等の手続きの代理
建築の請負(建物を実際に建てる工事自体)
技術士や技術士補の報酬・料金 専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験、評価、指導の業務に対する報酬 ほかの法律で定められた、資格制限のある業務に対する報酬
火災損害鑑定人や自動車等損害鑑定人の業務に関する報酬・料金 社団法人日本損害保険協会に登録された火災損害鑑定人、火災損害鑑定人補、自動車等損害鑑定人の業務に対する報酬 損害保険会社以外の者が支払う報酬・料金

所得税法第204条第1項第2号は、特定の専門家が行う業務に対する報酬を源泉徴収の対象としています。

第204条第1項第3号の診療報酬

第204条第1項第3号の診療報酬で源泉徴収の対象になるものとならないものは以下のとおりです。

区分 報酬・料金等に該当するもの 対象外となるもの
診療報酬 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬 健康保険組合や国民健康保険組合、または福祉事務所が直接支払う診療報酬

所得税法第204条第1項第3号は、医療機関に対する診療報酬を源泉徴収の対象としています。

第204条第1項第4号の報酬・料金

第204条第1項第4号の報酬・料金で源泉徴収の対象になるものとならないものは以下のとおりです。

区分 報酬・料金等に該当するもの 対象外となるもの
プロのアスリート・スポーツ選手 プロのアスリート・スポーツ選手に支払われる手当や賞金、出場料、ファイトマネーなどの報酬・料金
モデル ファッションモデル等の仕事に対する報酬・料金
雑誌や広告などの印刷物に自身の容姿を掲載させることによって支払われる報酬・料金
外交員や集金人または電力量計の検針人の業務に関する報酬・料金 取扱数量や取扱金額に応じてあらかじめ定められている報酬・料金 手数料
慶弔や禍福に際して、一定の基準に従って交付される結婚祝い金や香典などの金品

所得税法第204条第1項第4号は、プロのアスリート・スポーツ選手やモデル業を行う人、外交員などの報酬・料金を源泉徴収の対象としています。

第204条第1項第5号の報酬・料金

第204条第1項第5号の報酬・料金で源泉徴収の対象になるものとならないものは以下のとおりです。

区分 報酬・料金等に該当するもの 対象外となるもの
映画や演劇、メディア放送などへの出演・演出・企画等の報酬や料金 あらゆるエンターテインメントやメディア放送の出演・演出・企画に対する報酬や料金 飲食店、旅館などの場において特定の客の要求に応じて軽易な芸を披露した人に対し、観客が直接もしくは店・旅館等をとおして支払う報酬や料金
芸能プロダクション等の事業を行う人のその役務提供の報酬・料金 芸能関係の役者や監督、プロデューサー、演出家、歌手などの役務の提供を内容とする事業を行う人のその役務提供に対する報酬・料金 興行主が自らイベントを開催し、その入場者(不特定多数の人々)から直接受ける収入
公演に伴って客席の全部または一部を貸切契約として締結し、その貸切契約に対する支払いを受ける対価

所得税法第204条第1項第5号は、芸能関係の役務に関する報酬・料金を源泉徴収の対象としています。

第204条第1項第6号の報酬・料金

第204条第1項第6号の報酬・料金で源泉徴収の対象になるものとならないものは以下のとおりです。

区分 報酬・料金等に該当するもの 対象外となるもの
ホステスやコンパニオンなどの業務に関する報酬・料金 キャバレーやナイトクラブなどの施設におけるフロアで客を接待するホステスなどの業務に対する報酬・料金
飲食を伴う会合で、主に接待の役務提供をするバンケットホステス・コンパニオンなどの業務に対する報酬・料金
芸者・配膳人・バーテンダーの報酬や料金

所得税法第204条第1項第6号は、ホステスやコンパニオンなどの接待業務に対する報酬を源泉徴収の対象としています。

第204条第1項第7号の契約金

所得税法第204条第1項第7号に規定される契約金は、源泉徴収の対象になります。
具体的には、プロ野球選手やプロサッカー選手、俳優、モデル、特定の職業の芸能人などが、専属的な契約を結ぶことによって一時に支払いが行われる契約金のことです。

第204条第1項第8号の賞金

第204条第1項第8号の賞金で源泉徴収の対象になるものとならないものは以下のとおりです。

区分 報酬・料金等に該当するもの 対象外となるもの
事業の広告宣伝に関する賞金 クイズ番組やのど自慢の賞金品
事業者が商品を宣伝するために支払う賞金品
商店会などが自社の事業を宣伝するために支払う賞金品
寄贈された金品を原資として、広告宣伝のために支払われる賞金
社会的に顕彰されるような行為・業績を表彰するための賞金品で、支払者の営む収益事業との関連性が低いもの
従業員や構成員の勤務・競技成績を表彰する賞金
行政が広報目的で支払う賞金
旅行などのサービスで、金品との選択ができないもの
馬主に支払われる競馬の賞金 馬主に対し、競馬の賞として金銭で支払われる賞金 副賞として交付される金銭以外の賞品

所得税法第204条第1項第8号は、広告宣伝を目的として支払われる賞金を源泉徴収の対象としています。

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個人事業主の源泉徴収の計算方法

個人事業主の源泉徴収額は、自身で計算可能です。
ここでは、報酬・料金等の源泉徴収税額の計算方法と給与支払い時の源泉徴収税額の計算方法について解説します。

報酬・料金等の源泉徴収税額の計算方法

個人事業主の源泉徴収の基本的な計算式は、「報酬・料金の額×10.21%」です。
報酬・料金の種類によっては、1回に支払われる金額が100万円を超える場合に超過した部分のみ20.42%で計算します。また、控除金額が定められているケースもあります。

出典:
国税庁「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」
国税庁「令和7年版 源泉徴収のあらまし 第5 報酬・料金等の源泉徴収事務」

給与支払い時の源泉徴収税額の計算方法

個人事業主が給与支払いをする際の源泉徴収額は、国税庁が公開している「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」を用いて計算します。
個人事業主が給与支払いをするときの源泉徴収額の計算方法は下記のとおりです。

  1. 給与の総支給額を確認する
  2. 社会保険料等の控除を差し引く
  3. 差し引き後の給与額を「給与所得の源泉徴収税額表」で該当欄を探す
  4. 扶養親族の数に応じた行を税額表で該当する源泉徴収税額を確認する

出典:国税庁「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」

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個人事業主が作成する源泉徴収票の記載項目

個人事業主が従業員を雇っており、給与等の支払いを行っているケースにおいては、個人事業主は給与所得の源泉徴収票を作成・提出をすることが必要です。

個人事業主が作成する源泉徴収票に記載する主な項目には、以下が挙げられます。

記載項目 概要
支払を受ける者 本人の住所や氏名、個人番号(マイナンバー)など
種別 支払いの種類(給与や賞与)
支払金額 1年間に支払われた給与・賞与・手当の合計額(非課税は含まない)
給与所得控除後の金額 支払金額から給与所得控除を差し引いた金額
所得控除の額の合計額 社会保険料控除や生命保険料控除、扶養控除など所得控除の合計額
源泉徴収税額 年末調整で確定した1年間の所得税の合計額
配偶者・扶養親族の有無 控除対象となる配偶者や扶養親族の有無、人数
各控除額 控除対象となった社会保険料や生命保険料、地震保険料、住宅ローン控除の金額
控除対象者氏名 控除対象となる扶養親族などの氏名
「未成年者」から「勤労学生」までの各欄 各欄について該当事項がある場合に「〇」を記載
中途就・退職 年の中途で就職や退職、死亡退職をした場合、該当欄に「〇」を付けてその年月日を記載
受給者生年月日 受給者本人の生年月日
支払者 給与を支払った会社(事業主)の住所や名称

源泉徴収票の見本に関しては、国税庁の公式サイトに掲載されています。源泉徴収票の作成が必要な個人事業主の方は、国税庁の公式サイトから印刷しておきましょう。

確定申告に源泉徴収票が必要なのか気になっている方は、「確定申告に源泉徴収票は必要?書類一覧や確定申告に関する疑問を解説」をご覧ください。

出典:
国税庁「F1-1 給与所得の源泉徴収票(同合計表)」
国税庁「令和6年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」第2 給与所得の源泉徴収票(給与支払報告書)

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源泉徴収の仕訳のやり方

源泉徴収された金額は、収入から差し引かれていますが、事業所得の必要経費にはできません。そのため、支払われた金額と差し引かれた源泉徴収税を分けて記帳する必要があります。仕訳に使う勘定科目には「事業主貸」や「仮払金(仮払税金)」を用います。
勘定科目に「事業主貸」を使用した仕訳例は下記のとおりです。

【仕訳例】
売上高200,000円に対し、源泉徴収税20,420円が差し引かれ、普通預金に179,580円が振り込まれた場合は以下のように仕訳できます。

借方 金額 貸方 金額 摘要
普通預金 179,580 売掛金 200,000 原稿料
事業主貸 20,420 源泉徴収所得税

上記の仕訳により収入が200,000円であることが明確になります。事業主貸と記載されている源泉徴収された税額は、確定申告で納税額から控除されます。

個人事業主が使う勘定科目や仕訳方法などについて知りたい方は、「個人事業主の勘定科目一覧!経費に計上できる費用や仕訳方法も解説」を参考にしてください。

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個人事業主が源泉徴収した所得税を納税する方法

個人事業主が源泉徴収した所得税を納税する方法は、主に下記の7つです。

納税手続きの種類 納付方法の分類 概要 手数料
ダイレクト納付 キャッシュレス納付 e-Taxをとおして事前に届け出た口座から引き落としによって納付する 不要
インターネットバンキング キャッシュレス納付 インターネットバンキングの口座開設とe-Taxの利用開始手続を行い、インターネットバンキング・ATM等から納付する 原則不要
クレジットカード納付 キャッシュレス納付 e-Tax等を経由して「国税クレジットカードお支払サイト」へアクセスし、必要事項を入力して納付する 納付税額に応じた決済手数料がかかる
スマホアプリ納付 キャッシュレス納付 e-Taxを経由して「国税スマートフォン決済専用サイト」へアクセスし、支払方法を選択したり必要事項を入力したりして納付する 原則不要
コンビニ納付(QRコード) 現金納付 e-Tax等で作成したQRコードをコンビニに持参し、QRコードの読み取りによって出力されたバーコードを使ってコンビニ窓口において現金で納める 原則不要
コンビニ納付(バーコード) 現金納付 税務署から発行されたバーコード付納付書をコンビニ窓口に持参し、現金で納める 原則不要
窓口納付 現金納付 納付書を入手し、所轄の税務署や金融機関の窓口において、納付書を添えて現金で納める 不要

源泉所得税の納税方法は複数あり、状況に応じて選べます。
国税庁が推奨しているのはキャッシュレス納付です。個人事業主が源泉徴収した所得税をキャッシュレス納付を選択すれば、所有するスマートフォンやパソコンからe-Taxを利用して納付できます。

源泉徴収と合わせて確定申告についても知りたい方は、「フリーランスの確定申告はいくらから必要?必要書類ややり方も解説」をご覧ください。

出典:国税庁「源泉所得税の納税手続」

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まとめ

源泉徴収は、報酬や給与を支払う人が行う手続きです。
案件を受注して報酬を受け取っている個人事業主については、基本的には源泉徴収を行うことがありません。しかし、従業員を雇用して給与や手当を支払っているケースや税理士や弁護士などの特定の専門家に報酬を支払っているケースでは、個人事業主が源泉徴収義務者になります。

個人事業主が源泉徴収義務者になるときには、源泉徴収の対象となる報酬・料金の種類や税率、控除額、給与所得の源泉徴収税額などを把握し、源泉徴収税額を正しく計算しましょう。

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