個人事業主向けの年金や健康保険は?代わりになる制度も紹介

最終更新日:2024年10月04日


この記事のまとめ

  • 個人事業主は厚生年金に加入できず国民年金のみとなるため、老後の生活資金は不足しがちである
  • 個人事業主は国民年金基金や付加年金、iDeCo、小規模企業共済など不足を補うための制度を活用することが重要である
  • 個人事業主の健康保険は国民健康保険が一般的だが、任意継続や家族の扶養に入るなどの選択肢もある

個人事業主には厚生年金がないため、老後の生活に支障が出ないか心配な人もいるでしょう。しかし、個人事業主は国民年金以外の制度も利用可能です。用意された制度を駆使して不足をカバーし、老後に向けて資産を形成しましょう。

本記事では、個人事業主が加入できる年金や健康保険を解説します。国民年金と厚生年金との格差や健康保険の手続き、資産形成の手段などを知りたい方はぜひご覧ください。

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国民年金とは

個人事業主は会社員が入る厚生年金に加入できません。代わりに国民年金に加入します。以下で国民年金の制度の概要や特徴を見ていきましょう。

国民年金の概要

国民年金は、20歳から60歳までの国民が保険料として一定金額を支払い、働けなくなった人々を助ける制度です。支払う保険料は定額で、将来の受給額は加入していた期間により変わります。

年に1度届く「ねんきん定期便」をチェックしたり、日本年金機構のサイトから「ねんきんネット」へ登録したりして確認し、未納がないよう注意しましょう。

また、国民年金保険料は全額が確定申告時の社会保険料控除対象となります。個人事業主として自身で確定申告する場合は、忘れずに記載してください。

国民年金の保険料は毎年変わる

国民年金保険料は定額ですが、その金額は毎年変わります。金額はその年の4月に届く納付書で確認可能です。2022年度の1ヶ月あたりの保険料は16,590円となっています。

まとめて前納でお得な割引も

国民年金は4月に12ヶ月分の納付書が届き、それを支払期日までに払っていくのが基本です。ただ、支払い方のバリエーションは少しずつ増えてきています。現在はまとめて前払いすれば割引があるほか、クレジットカードを使った納付もできるようになっています。

経済的に厳しい場合は免除などの申請を

国民年金は対象となるすべての人に加入義務がある保険ですが、退職して個人事業主になってすぐなど、収入が急激に減ってしまう状況もあります。そんなときには免除制度が利用できるため、検討してみましょう。

日本に住んでいる人全員に加入義務がある

国民年金は、20歳以上60歳未満で日本に住んでいる人全員に加入義務があります。個人事業主や会社員のみならず、主たる生計維持者の配偶者(収入が一定水準以下)も含めた全員が対象です。これを強制加入被保険者といいます。

強制加入被保険者は以下のように区分されています。

被保険者の属性 区分
個人事業主など自営業者 第1号被保険者
会社員、公務員など 第2号被保険者
第2号被保険者に扶養されている配偶者 第3号被保険者

厚生年金は加入と同時に国民年金にも加入するので、会社員や公務員も国民年金によりカバーされることとなります。これを第2号被保険者といいます。

国民年金の被保険者区分のうち第3号被保険者とは、第2号被保険者の配偶者で、所得が一定水準以下の人たちを指します。配偶者の扶養の範囲内で働く人たちはこちらに該当し、自分で国民年金保険料を負担する必要はありません。

一方で、自営業者の配偶者は所得水準が一定水準以下であっても第1号被保険者となり、年金保険料を負担することとなります。

国民年金のカバー範囲は広い

国民年金には「高齢になったら受給するもの」というイメージがあります。それは正しいのですが、国民年金は必ずしも高齢者向けとは限りません。国民年金には、以下のように違ったシーンをカバーする3種類の年金があります。

国民年金の種類 説明
老齢基礎年金 一定年齢に達することで給付される年金
障害基礎年金 病気や事故が理由で障害を負ったときに給付される年金
遺族基礎年金 被保険者の死亡により遺族となった被扶養者に給付される年金

このように国民年金のカバー範囲は広く、老後の話だけではありません。不慮の事故のリスクは誰にでもあります。「保険料がもったいない」「まだ先の話だから」といった理由で国民年金に加入しないでいることは避けましょう。

国民年金保険料の支払いが難しいときは、免除や納付猶予といった制度が利用できる場合もあります。

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厚生年金との違い

厚生年金は、国民年金にプラスして加入する年金保険です。一定の基準を満たした事業所は必ず加入すべきで、その事業所で働く従業員は基本的に厚生年金保険の被保険者となります。

正しく知っておきたいのは、厚生年金に加入している間も国民年金へは並行して加入している状態だということです。厚生年金は国民年金にプラスされる保険なので、トータルで支払う保険料は大きくなります。

しかし、前述したように、従業員が負担するのはその保険料の一部のみです。厚生年金に入っていると、保険料の支払い金額を抑えつつ受給額を増やせます。従業員が厚生年金に加入している期間が長ければ長いほど、受給額は多くなります。

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国民年金の給付額は?

日本に住む人は、20歳を迎えて国民年金に加入してから60歳までの40年間保険料を納付します。この期間、1ヶ月も休まずに年金保険料を納付すれば国民年金の支給額は満額となります。

厚生年金との比較

「国民年金だけでは生活費をまかなえない」と耳にすることは少なくありません。国民年金・厚生年金の月の給付額、厚生年金と比べて金額差はどの程度あるのかを解説します。

以下は、2024年度・2023年度において、67歳以下が受け取る月の給付額の比較です。国民年金機構の情報を参照しています。

  • 国民年金:68,000円・66,250円
  • 厚生年金:230,483円・224,482円

※厚生年金は満額の老齢基礎年金(夫婦2人分)を含む標準的な年金額

日本年金機構が示す厚生年金は、平均的な年収の人が受け取れる金額です。単純計算すると、月収43.9万円の年収は526.8万円であり、40年間働いた場合の総額は約2億1,000万円です。

厚生年金には夫婦2人分の国民年金が含まれています。同じ条件にするために国民年金を2倍すると、132,500円・129,632円です。国民年金と厚生年金の差は月額9万円ほどあるので、たしかに国民年金だけで生活費を賄うのは大変でしょう。

老後にはどの程度の費用が掛かる?

金融庁の資料によると、老後の1ヶ月あたりの生活費は約26万円とされています。65歳の年金支給開始から80歳まで生きた場合、4,680万円の費用がかかります。

ある程度は年金による収入で補えても、貯蓄は必要になるでしょう。定年が60歳の場合は65歳になるまでの5年間は年金をもらえないため、貯蓄の計画的な消費が重要です。

支給額は少ないことを知っておこう

老後に必要な生活費を考えると、国民年金だけで暮らすのは厳しいと言わざるを得ません。夫婦2人が受け取れる国民年金は、2023年度の場合は132,500円です。老後に余裕のある暮らしをするためには、追加で月10万円程度を補填する必要があります。

国民年金が満額支給される条件は、40年間絶えずに国民年金保険料を納めることです。未納の期間があった場合、支給される金額が少なくなったり、受け取れなくなったりします。

老後の生活を不自由なく送るためには、国民年金を補うために対策するのがおすすめです。その方法についても後にまとめているので参考にしてください。

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国民健康保険とはどのようなものか

日本は国民皆保険制度があるので、個人事業主も年金に加えて健康保険にも加入しないといけません。多くの場合、個人事業主が加入するのは国民健康保険です。以下で詳細を見ていきましょう。

運営するのは自治体

国民健康保険は、都道府県や市町村が保険者となって運営する医療保険制度です。病気になったり負傷したりした人の経済的負担を軽減するために、加入者から集めた保険料を充当する制度となっています。

国民健康保険は公的な医療保険なので、加入者が負担した保険料に加えて自治体からも税金などが医療費に充てられます。

加入者はどんな人?

国民健康保険には多くの人が加入するので、対象でない人を示す方がわかりやすいでしょう。国民健康保険が対象外になる人は以下のとおりです。

  • 会社などの健康保険組合の加入者とその扶養家族
  • 共済組合加入者とその扶養家族
  • 他の国民健康保険組合の加入者

このほか、船員保険の加入者とその扶養家族や、後期高齢者医療制度の加入者などがありますが、一般的にこうした医療保険制度は個人事業主をカバーしません。他の健康保険制度に加入できない人が国民健康保険によりカバーされることになります。

国民健康保険の加入の手続き

会社員や公務員は、自分で意識しなくても対応する医療保険制度に加入できます。対して個人事業主は、国民健康保険への加入手続きを自ら行わないといけません。

手続き自体は住所地にある市区町村の役所で行えます。会社を辞めるなどして、元の健康保険の資格を喪失した日から14日以内に手続きしてください。

手続きに必要となる書類は概ね以下のとおりですが、自治体により異なることがあります。あらかじめ問い合わせると良いでしょう。

書類の種類
職場の健康保険をやめたことを証明する書類 健康保険等資格喪失書など
個人番号確認書類 マイナンバーカードなど
届出者の本人確認書類 マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど
保険料振替用口座がわかるもの キャッシュカードまたは通帳と金融機関の届出印

手続きすると保険料が計算されて、保険証が交付されます。

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知っておきたい国民健康保険の弱点

会社員時代に加入していた健康保険で利用できた制度のうち、国民健康保険にはないものがあります。以下に例を示します。

国民健康保険には「扶養」という概念がない

会社員時代の健康保険では、3親等以内で条件を満たす人を保険料の追加なしで扶養に入れることが可能です。一方で、国民健康保険には扶養という概念がありません。国民健康保険の保険料は、所得割・均等割・平等割から構成されています。

種類 説明
所得割 加入者の所得に応じてかかる金額
均等割 加入者一人ひとりにかかる金額
平等割 一世帯にかかる税額

扶養家族がいると均等割分が人数ごとに増えていくため、会社員時代の保険と同じような扱いにはなりません。なお、保険としては扶養の概念はないものの、税法上の扶養は国民健康保険加入者でも活用できます。

傷病手当金制度がない

会社員であれば、業務外の病気やケガで仕事を休まざるを得なくなった場合に、一定の条件を満たすと傷病手当金が受け取れます。働けない期間の生活保障は、万一のことを考えるととても心強いものです。

国民健康保険にはそういった制度はありません。今後も個人事業主に対して傷病手当金の制度が認められるかは不明です。

保険料負担が大きくなる可能性がある

独立後事業が安定せず、思いの外収入が伸びないこともあるでしょう。こういった場合、保険料が想像以上に重い負担になる可能性があります。

また、会社員時代の収入がある程度以上に高かった場合、想像をはるかに超える金額の保険料が算出されることもあります。非自発的な失業であれば保険料の減免措置がありますが、独立の場合はそれに該当しません。

国民健康保険料の高さは、ある程度考慮しておく必要があります。

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国民健康保険以外の選択肢とは?

日本は国民皆保険制度の国なので、国民健康保険に入らないなら他の医療保険に加入する必要があります。個人事業主が選べる可能性がある制度は以下の3つです。

組合あるいは協会健康保険の任意継続

会社を辞める際、その会社で加入していた健康保険をそのまま継続加入することができます。これを任意継続といい、会社員時代と同じ内容の給付を受けることが可能です。多くの人が利用可能な選択肢だといえます。

任意継続のメリットは給付だけではありません。所得などで一定の条件を満たす必要がありますが、扶養家族がいる場合はその分保険料を抑えられます。任意継続を希望する場合は、条件を確認しておきましょう。

個人事業主が任意継続を利用する場合の主な注意点は、以下のとおりです。

  • 負担する保険料は会社員時代の2倍となる
  • 任意継続の期間は資格取得から2年間である
  • 保険料の納付が1日でも遅れると、自動的に資格喪失となる

任意継続の手続きは、退職日の翌日から20日以内に行ってください。また、任意継続する際は、資格喪失の前日までに2ヶ月以上保険に入っていた期間が必要となります。

組合あるいは協会健康保険の被扶養家族

個人事業主として独立はしたものの、収入が一定水準に満たない場合は扶養に入るのも手です。配偶者や両親、子どもなどに組合や協会健康保険の被保険者がいれば、その扶養家族になることで健康保険に加入可能です。

保険運営者によっては就労可能年齢にある家族を扶養にする際、扶養する必要性の証明を要求されることがあります。

業界団体の健康保険組合

個人事業主の職種によっては、加入できる健康保険組合があります。フリーランスで加入者が多いと考えられるのは、文芸美術国民健康保険組合です。Webサイトに記載されている加盟団体への加入が条件とはなりますが、クリエイターとして活動する個人事業主ならば検討しても良いでしょう。

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個人事業主の資産形成について

先に見てきたとおり、公的年金が国民年金しかない個人事業主にとって資産形成はとても重要な意味を持ちます。以下の制度を利用すれば、会社員との差を埋められる可能性があるでしょう。

国民年金基金または付加年金

公的な年金制度の枠内では、国民年金基金および付加年金という2つの方法があります。

国民年金基金は、国民年金に上乗せして積み立てる制度です。掛金は自分で設定できます。上限は月68,000円で、金額の変更も可能です。

付加年金は、国民年金保険料に月400円を上乗せすることで、納付した月数に200円をかけた給付金を毎年受け取れる制度です。上乗せ分は年金受給後2年で回収できるので、お得感があります。

なお、国民年金基金と付加年金はどちらか一方のみの加入となります。重複しての加入はできません。

確定拠出年金

私的年金制度として、iDeCoという個人型の確定拠出年金があります。こちらは掛金の積立額や運用方法を自分で決めるものです。

個人事業主向けというわけではなく、20歳以上60歳未満のすべての人が加入できます。元本と運用益を60歳以降に受け取ることになりますが、受取金額は運用成績に左右されるのが特徴です。必ずしも元本が保証されるわけではない点に注意してください。

小規模企業共済

個人事業主には退職金がありません。それをカバーできるのが小規模企業共済です。加入して積み立てれば、廃業時に退職金としてまとまったお金を受け取れます。

個人年金保険

生命保険会社などが提供する個人年金保険も資産形成には重要な手段となります。契約時に定めた年齢に達するまで保険料を払い込み、それ以降に年金として受け取るものです。

年金の支払期間が10年のようにあらかじめ決められているものと、加入者が存命である限り受け取れる終身年金があります。前者は加入者の生死に関わらず年金を支払い続ける確定年金と、加入者が亡くなった時点で支払いが終了する有期年金とに分けられます。

不動産

運用資産としての不動産ではなく、居住のための不動産を持つことで老後に大きな安心感が得られるでしょう。高齢になってから賃貸住宅に住まうことは、退去しなければならなくなった場合などに新しい住居が見つからないリスクも生じます。

高齢になったときに必要な資金を得る方法はいくつかあります。不動産の売却ではなく、リースバックや不動産担保ローンのように、その時点での状況に応じた選択をすると良いでしょう。

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まとめ

個人事業主に向けて用意されている年金や健康保険の制度は、会社員と比べると恵まれているとは言いがたいです。しかし、自ら対策すればかなりの部分をカバーできます。

もちろん、使えるお金には限りがあります。どの対策を優先的に実施するのかを熟慮する必要はありますが、傷病あるいは老後に対する安心感を高めることは可能です。普段から備えておきましょう。

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